無音の狐(むおんのきつね)

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日本には昔から”狐につままれる”という言葉がある。
予想外のことが起こり呆然とするという意味で使われており、
狐は不思議な力で人を騙す存在として、現在でも神格化している場所もあるほどだ。

彼女は、そんな狐のように相手を化かしたりする能力はなかったが、敵からはこう恐れられていた。

――無音(むおん)の狐、敵の倒れる音すら伏せる――

たとえ集団で彼女を警戒していようが、一人また一人と音もなく倒れていくその様子に、
敵は何が起きているのかすら理解できないまま静かに命の灯火を消されていく。
その無音の暗殺術は、彼女の頭領ですら仕組みを把握しておらず、それゆえに
隠密任務では常に彼女が先陣をきるか、彼女単独で行われる。

「いずれあいつは俺たちをも手にかけ、組織を乗っ取ることも不可能ではない…」
「だがお頭はまったくそのことを気にかけてもいらっしゃらない」

彼女の暗殺術は仲間からも忌み嫌われていた。
常に狐のお面をかぶる孤独な少女の顔を知るものは少ない。
顔の傷を隠すためだったり、敵に動向を悟られないためだったりと言われている。
頭領だけはお面の真意を見抜いていた。
敵を殺すたびに、ながす涙を隠すためのものでもあるのだと。

そのやさしさを知る頭領が彼女の実の父親であることは、仲間の誰一人、彼女自身にも知らされていない。