室町の日報(むろまちのにっぽう)

¥ 3,500

※こちらの価格には消費税が含まれています。

※送料は別途発生いたします。詳細はこちら

送料について

この商品の配送方法は下記のとおりです。
  • レターパック

    日本郵便が提供する宅配サービスです。荷物追跡に対応しています。

    全国一律 600円

※10,000円以上のご注文で送料が無料になります。

通報する

【 室町 】

火縄銃が伝来した後、日ノ本の戦は大きな転換期を迎える。

戦の中で忍びがもっとも活躍したのは室町の終わり、戦国時代のこと。

昼は人に紛れ、夜は闇に紛れ、姿も音も消して任務を行う忍びの中に、

轟音を発する火縄銃を武器として扱う忍びがいた。

馬上戦、接近戦にも対応できるように片手で取り扱う独自の撃ち方を編み出し、

その働きによって、戦世の幕引きを二十年早めたと言われている。

江戸の御代では大きな戦もなく、火縄の忍びはその仕事を終え、

現在では彼らの近くに在った者が書いたとみられる僅かな文献が残されているのみだった。

その文献には、火縄の忍びの中に一人の卓越した使い手がいたということが記されている。

名前が記載されていたであろう箇所は削り取られており今となっては知る術も無いが、

その使い手は男装の女性であり、彼女は任務へ向かう途中で謎の失踪を遂げたとある。


============


火縄の忍びが目を覚ました。

身を起こして辺りを見回すと、そこは見慣れない森の中だった。

与野郷に向かう任務の道行きにこんな森は存在しない。

「…荷は無事か…」

愛銃も火薬も、弾もある。それさえあれば他に何もなくとも生きては行ける。

任務の途中である。どれくらい寝ていたか、ここがどこかはあとで確かめるとして、

とりあえずは山を抜けてどこかの里に出、道を訊いて与野郷へ急ごうと歩き出した直後だった。

「…!」


後ろで気配を感じ、咄嗟に銃をそちらに向けた。

だが、そこには誰もいない。

しかしその気配が気のせいではないことは、続く声が教えてくれた。

「その銃、その構え……貴方――」

後ろからの声に咄嗟に振り返ると、そこには見知った顔があった。

「日報なの?」

日報は驚いて名前を呼び返す。こんなところにいるはずがない、仲間の名前だった。

「……ナツメ殿!」


さて、滅多に表情を変えないナツメも、さすがにこの時は驚いた。

現代において、まだ自分が人間だった頃の知り合いに出会えるとは思ってもみなかったからだ。

「ナツメ殿、お久しぶりです」

日報はナツメに向けていた銃を下ろすと、丁寧にペコっと頭を下げた。

ナツメは軽く会釈をしながら日報の様子を確かめる。

彼女が自分と同じくヴァンパイアになっている様子はない。

―ならばこれは、時空の歪みか。

予想外の現実に思案を巡らせるナツメに、日報は問いかける。

「任務中です。与野郷へ行きたいのですが、気づけばここに居りまして」

「与野郷?今はもうその場所は無いわ」

「え?」

「ここは貴方の生きた時代ではないの」

「…?」

合点の行かない様子の日報に、ナツメは言った。

「私が最後に貴方に会ったのは、おおよそ450年前のことよ」

信頼できる人の言葉なのに、何もかも理解を超えている。

植生も気候も昨日の続きのような場所で、ここは450年後であると目の前の人は言う。

「ともかく、一緒に来てくれるかしら。まずは私の子孫に会わせたいの」

「……ご説明をいただけますか」

ナツメは現在までの成り行きをなるべく丁寧に説明した。

時折聞きなれない単語があったものの、日報は自分の置かれている状況を大体理解した。

戦国は終わったし、忍の村も無くなったのだという。では、この忍びの生きている意味は何なのだろう。

「我らは、あるべき場所に戻れますか」

ナツメは沈黙した。

日報は理解した。

最後の任務に使うはずだった弾は、まだこの懐にある。

今がどんな時代でも、せめてこれだけ撃ち尽くさねば、死ねもしない。

日報は愛銃を強く握りしめた。