鉄馬の冴輪(てつばのさわ)

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【 鉄馬 】

助手席に座る男が銃にサイレンサーを取り付け、マガジンを確認している。

運転席の男は胸元から小さな写真を一枚取り出して月明かりに照らして見せた。


「気が乗らないな…腕は確かだし、しかも美人だ」

「上の命令だ」

「来ると思いますか?」

「遂行率100%なんだろ?」

写真をしまうと、彼もまた銃を取り出し点検を始めた。

山の麓の廃屋の近く、彼らはある一人の運び屋を待っていた。

彼女は「契約厳守」「質問はしない、受け付けない」「依頼品は開けない」

の3つのルールを自分に課し、常に完璧な仕事をすることでその界隈では有名だった。

であるがゆえに、あらゆる組織がより多くの金を出し彼女を取り合うことも珍しくなかった。

だが最近は、その彼女への依頼によって裏社会の勢力図を大きく変えてしまう一旦になりつつあった。

助手席の男が車載時計の「2:28」を確認すると、何も言わずに車から降りた。

彼に合わせるように運転席の男も車から出ると、彼について行った。

二人が廃屋まで足を進めたところで、向こうの曲がり角からエンジン音と共に光が近づいて来るのが見える。

二人の前でバイクが止まると、彼女が降りたところで助手席の男が腕時計を確認した。

「2:31」を指していた。

「ふむ……そろそろ時計を新調するか」

「いいえ、それは精確よ」

両腕を半回転させ金属音が鳴ると、機械仕掛けの2本の大きなブレードが飛び出し、彼女は音も無く彼の腕時計ごと体を真横三つに切り裂いた。

エアル・パイオン(春の灰)と名づけた愛用の暗器である。

噴出した血飛沫が、運転席の男をみるみる赤く染めていく。

咄嗟のことで、彼は何が起こったのか分からなかった。

変わり果てた相棒に唖然とする彼に、彼女は小さな依頼品を差し出した。

「もう他に気配はないわね、ほら」

何も言えないまま彼は血に染まった手で受け取ると、

「遅刻は遅刻、だから代金はいらないわ」

そう言うと、金属音と共にエアル・パイオンが腕の中へと引っ込みバイクにまたがると、まるで何事も無かったように走り去ってしまった。

彼は力なく受け取った品物を落とし、腰に装備していたレシーバーを耳元にゆっくり近づけた。

「……こちら…レター・1……ブツは、確保しました」

「始末は済んだか?」

「……あの……その、今――」

「ちょっと待て、(……何?、他のチームと一切連絡が取れない?どういうことだ?)」

向こう口が慌しくなっている。

「実は――」

「レター・1!何が起きている!?状況を説明しろ!!!」

「……恐らく、私以外…全滅です……」

「くっ……なぜだ、どこでバレた!?いや、バレたとしても、一個中隊ほどの人数を揃えたはずだっ!!」

「……なぜ私は、殺されなかったのでしょうか……」

「受取人がいなければ奴にとっては仕事が完了しない、それだけだ!……クソォ!!」

物に当り散らす激しい音が電話口から聞こえてくる。

「い、今から、ブツを持って戻りますっ!」

「待て。その前に中身を確認しろ、オーバー」

そう言うと、通信が途絶えた。

彼は落としたブツを拾い上げると、中身を開いた。

中には小さなメモが一枚、こう書かれていた。


――失敗は許さない――


彼の組織は巨大であり、どこへ逃げても無意味であることは彼自身が良く分かっていた。

満月の夜、人里離れた山の麓、一発の銃声が鳴り響いた……。